ラックとミーちゃんの物語　3

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

■手の中で、あっという間に　ただの「物」になっていってしまう　いのち。

たましいの抜けた身体は、どうしてこんなに急によそよそしくなってしまうのでしょう。
何度経験しても、わからない事実です。生きていることの不思議。逝ってしまうことの不思議。

私の慟哭にびっくりして、子供達はむしろ呆気にとられて　私を見ていました。

もしもあの時、庭仕事のキリのいいところまでとミーちゃんを一人にしておかなかったら、とか
どんなに心細かっただろう、とか
もしもあの時違う医者なんかに連れて行かなかったら、
毒なんて飲んでなかったのかも知れなかったじゃない、だから毒消しがむしろ毒になってしまったんじゃないかとか…
いろいろな後悔や不安がどっと押し寄せてきました。

そして、その日はちょうどミーちゃんが家に来てから、満1年目の11月21日の翌日でした。

玄関を開けたら、まるでもとから自分の家だったかのように、トコトコトコっと入ってきたミーちゃん。
お行儀よくしゃんとすわって、まっすぐな視線で私達を見る、その清らかな瞳に魅せられて、
飼うことにきめてしまったその日から、たった一年で逝ってしまった、家族。
病人がいたこともあり何か暗かった我が家は、彼女のおかげで、赤ちゃんを迎えた家族のように
彼女の一つ一つのかわいらしい行動に笑い、喜びました。この幸せを連れてきてくれた天からの訪問者は、
あっけなく逝ってしまいました。

その、後悔や疑問はずっとずっと私の中で続いていたのですが、この伯母の夢の話を聞いて、躍り上がりました。
そうだった。違う世界に行っただけだったんだ。知ってるはずだったのに。
なんで今まで気づかなかったんだろうと思いました。

我が家には、以前から夢で天からのメッセージを受け取る、という事がたびたびありましたので、
なんの疑いもなく、この夢を私は受け入れました。
私があまりにミーちゃんに対する執着が強く、それが曇りとなって、天からのメッセージなど受け取れる状態ではなかったため、仏様がその日行くことになっていた親戚の伯母のもとにメッセージを届けてくれたとしか思えませんでした。

しかも、母が飼うことにしてくれたって…もう、安心です。もう、悲しみません。
また、会える日も来るのです。私は元気になりました。

ちなみに、この話を当時5年生だった娘に話すと、彼女曰く、
「じゃあ、おばあちゃんが飼うために、ミーちゃん、死んじゃったの?　おばあちゃんがミーちゃん殺したの?」
・・・・・・・
うー。どう言えばいいのかな〜。むづい…。
いや、ミーちゃんが家に来たときみたいに、フラッとおばあちゃんの天国の家にミーちゃん、訊ねていったのかもしれないよ
と、今なら言うんだけど・・・この時は、なんかうまく言えなかった気がする。

■そうやって、ラックとの生活は始まりました。

■この約1年後、また新しい家族が増えました。ペコです。
このペコは、網戸越しにラックに甘えてきていた猫でした。そのうち玄関先にエサを置くようになり、寒くなってくると
放っておけず段ボールの風よけを作り…ある大雪の日、もう今日は家に入れてやろうと決心して帰宅すると、
段ボールはもぬけの殻。あわてて子供に尋ねると、「もう、お父さんが入れた」と言う。

■このペコは、はじめ2匹の兄弟で家のまわりをウロウロしていたのですが、知らない間に一匹になってしまっていました。
ペコが近所に現れるようになる数日前、子供が公園で、ひどい状態で人間に殴り殺されたと思われる子猫を目撃していました。子供はお墓を友人とつくって葬ってやったそうです。

その片割れなのかもしれません。ペコは人をとても怖がるのです。
ひどい恐怖を味わったのではないかと想像しています。長い間戸外でエサをやっていた時も、決して人に慣れようとはせず
手からエサをやって慣れさせようとしても、けっして近づかず、無理して捕まえようものなら、するどい爪でこちらがきずだらけになります。
　もう3年近くになりますが、まだ人間が恐いようで、ブラシなんかかけようとすると、きゅんきゅんといじめられている時のような声を出してなくのです。いつもおどおどしていて、引っ込み思案です。恐いので風呂にも入れられません。
猫でも、「三つ子の魂百まで」はきっとあるのでしょう。

人間を信じきって、掃除機をかけていると、「吸って〜」と寄ってくるラックとはとても違います。
ラックはハボキで毛を吸ってもらうのが好きな、変わった猫。
人間に救われた事がわかるのでしょうか。とても人なつこい猫です。

ま、ただの性格なのかもしれませんが…

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